減価償却の魔法って、やっぱまやかし?

Last updated on 2023年8月2日 By 杉田健吾

前回のレクチャーでは、高級車(ベンツ)を例に出して「車を買う必要がないのに利益が出たから節税目的で車を買うのは、目的と手段が逆になっていませんか?」という話をしました。

そこで読者さんより、とある質問をいただいたので、今回のレクチャーではその質問にお答えしようと思います。

今回の内容は

前回のおさらい:本当にその節税対策、必要ですか?
それは節税?それとも浪費?
節税対策はなんのためにやるのかを考えよう

融資を受けて買った償却資産は節税対策になる?
借りたお金はいつか返さないといけない
減価償却を使った節税対策は税金の繰り延べにすぎない

まとめ

前回のおさらい:本当にその節税対策、必要ですか?

質問にお答えする前に、前回のレクチャーのおさらいを軽くしておきましょう。

それは節税?それとも浪費?

例えば、500万円の車を法人名義で買ったとしましょう。4年落ちの中古車であれば、たった1年で減価償却費として経費になるので、法人税率が30%だったとすると、500万円×30%=150万円の法人税の支払いがそのときは減るんです。

それは間違いではありません。個人で車を買っても、全額経費にすることはなかなか難しいですからね。そういう意味では車のような金額の大きいものほど法人で買うと、節税効果は高いと言えます。

でもそれは「買う必要が先にあった場合は」という前提があっての話…。車を買う必要もないのに税金を払うのが嫌だからといって、車を無理やり買うのは、節税ではありません。確かに支払う税金は減るかもしれませんが、それは単なる浪費にすぎません。税金が減る以前に車を買うお金500万円が手元から出て行ってしまうので、本末転倒なんです。

節税対策はなんのためにやるのかを考えよう

「減価償却で節税」と聞くと、ちょっと甘い言葉に聞こえるので騙されやすいんですよね。でも、そこでちょっと立ち止まってみましょう。ベンツも不動産も〇〇も経費にはなるかもしれませんが、「あなたが買う=お金出て行く」ということを考えてほしいです。つまり、減価償却は経費にはなるのですが、その前に物を買うので、お金を払っているんですよね。

節税のために経費を作り出さなきゃと考える前に、自分の心に問うてみてください。150万円の税金を減らすために500万円のお金払って車買うって、本当に大丈夫?それよりも税金150万円払ってでも350万円の現金を手元に残しておいた方が、その後の事業資金として有効活用できませんか?

節税対策をするときには、なんのために節税をするのかを考えてからやりましょう。ただ単に税金を支払いたくないから、という理由では、後々大きく損をすることになります。

融資を受けて買った償却資産は節税対策になる?

ここからが本題です。

こんな質問をいただきました。

「この車の購入資金を全額銀行から借りているので、買ったときにお金は出て行っていません。なのに、車の購入代金である500万円が全額経費にできるのであれば、すごい節税になってませんか?」

借りたお金はいつか返さないといけない

確かに車の購入資金の500万円をあなたが銀行から借りたのであれば、その時点では自分のお金は一切使っていない、自分のお金は一切出て行っていません。にも関わらず、買った車の代金500万円が全額経費にできて、その結果法人税が150万円も減るのだから、なんだかすごく得をしているような気分になります。

聞けば聞くほど、魔法のような気がするんです。だって、自分のお金を一切使わずに、500万円もの減価償却費という経費を作り出したから。「減価償却の魔法」と言われる手法なんじゃないの?と思ってしまうのも無理ありません。

でも、実は、まやかしです。自分の手元のお金が減っていないのは、あなたが借金したからですね。結局あなたが借りたお金って返さないといけませんよね。しかも利息をつけて返さないといけないので、結局トータルで支払う金額はキャッシュで買うより増えてますよね。

減価償却を使った節税対策は税金の繰り延べにすぎない

仮にこの車を3年後に売却した時に、買った時と同じ値段の500万円で売れたとしましょう。そのときに借金を返済して手元にお金が残っていない状態なのに、500万円の売却益だけが生じています。なぜなら、全額減価償却済みだからですね。

車を買ったときには逃れられた150万円の税金が、3年越しに「払え!」とやってきても、手元にはお金が残ってなくて慌てる、といったことが起きてしまうんです。「あれ?やっぱなんも節税になってないじゃん」と、ここではじめてまやかしに気がつきます。

なので、減価償却費で節税というのは、どこまで行っても税金の支払いを無くせるということではなく、税金の支払いを後ろに遅らすことができるという意味ですからね。ちなみに専門用語で「税金の繰り延べ」と言います。しっかり理解した上で税金を支払う時期をコントロールするという目的なら、減価償却の魔法を使うのも、ありですね。

まとめ

今回のレクチャーでは、減価償却の魔法のまやかしについてお話しました。今回のポイントは次の3つです。

・減価償却は税金を減らせる魔法ではない

・減価償却での節税は、税金の支払いを遅らせることができるにすぎない

・減価償却での節税は、税金を支払う時期をコントロールしたいときにはもってこいの節税方法

節税対策をするときには今一度立ち止まって、本当に自分にとって有効な方法かを考えてから行いましょうね。